2020/8/12初版、2020/9/8改訂

文字通り、大腿の付け根の窪み線より上にある三角状(大腿三角)の部分で発生する疼痛で、結果から言えば、歩行時の支障を来します。
鼠蹊靱帯の深部に大腿動脈及び大腿神経、腸骨Mや大腰Mが走行し、股関節での大腿屈曲に作用しますが、当症例ではその動作で痛みを生じる事から、全く歩行不可に陥る訳ではありませんが、歩行に支障が生じ得ます。

腰椎疾患と股関節周囲M群の2パターンに別れますが、前者はL1〜2領域が鼠蹊部に相当し、L1〜2神経根が障害される総ての症例で当該症例を併発する可能性を持ちます。極稀にL3〜S1領域でも生じる場合も有ります。

対して後者は、外閉鎖/長内転/腸腰/恥骨M等の各鼠蹊部周囲M群が攣縮(意図しない痙攣性の収縮)する事により圧痛が出現します。日常生活に於ける姿勢により発症の程度が左右されます。


ここで、当該症例に於いて必要な解剖を見てみます。外方に縫工M、内方に長内転M、上方に鼠蹊Ligとで包囲され、そこに「鼠蹊管」と呼ばれる大腿動脈/同静脈/同神経が縦走しています(大腿三角)。
大腿N外方の深層に「腸腰M」が縦走しています。腸腰Mは腰椎と大腿骨を連結するM群の総称で、小腰/大腰/腸骨の各運動器で構成されており、主に股関節の屈曲作用に重点を置いています。

日常生活に於いて、この「腸腰M」が巧く動作されない場合、下肢を屈曲できずに階段の昇降動作で足先を引っかけて転倒し、最悪の場合、大腿骨頸部骨折(FNF)を引き起こし、特に高齢者の場合は寝たきりになる場合もあります。

それだけ「腸腰M」が重要な役割を担っているかが分かります。

昨今、新型ウイルスの影響で外出の自粛期間が長期化した影響で歩行の機会が減少し、今すぐの影響でなくても、後になって当該症例が顕著に現れた時には、時既に遅しです。


関節唇の損傷や恥骨剥離、結合部炎症(細菌感染)、鼠蹊ヘルニア等の症例に随伴して生じるとされていますが、上体と下体との動作バランスに不整合を来すような運動を続けた場合に発生する確率が高いです。鼠蹊部に機械的外的要因が負担として加味される事によって症例が増強します。

蹴球のアスリートに好発しやすく、この場合は男性に好発しますが、普段の運動機会が少ない女性も意外と多発する傾向にあります。

予防策は他のサイトでも度々触れられていますので割愛しますが、鍼灸施術では、「伏兎」「風市」「気戸」「天容」「五里」に置鍼、「急脈」「府舎」「居髎」「維道」「帰来」「水道」は電気鍼とします。
「五括」という圧痛部位(T5の高さで肋骨上、頚腸肋M上)には軽度の弱啄電気鍼(※深刺すると気胸のリスク有)又は多壮灸を加味します。


下記は専門的領域に入りますので、脳の片隅にでも置いておけば役に立つ時が出てきます。

当該症例の評価基準には以下のような事柄が挙げられます:
イ)内転M関連(ARGP=Adductor-related Groin Pain)
内転M恥骨付着部に発生する股関節の内転運動時痛

ロ)腸腰M関連(IRGP=Iliopsoas-related Groin Pain)
腸腰M遠位部で発生する股関節屈曲時痛

ハ)鼠蹊部関連(INRGP=Inguinal-related Groin Pain)
鼠蹊管又は周囲組織に発生する腹直M運動時痛

ニ)恥骨関連(PRGP=Pubic-related Groin Pain)
文字通り、恥骨結合部に発生する疼痛

ホ)股関節関連(HRGP=Hip-related Groin Pain)
MRIでの所見による(外科判断)

鼠蹊靱帯部痛の鍼灸施術事例は別頁で触れます。
但し、施術する部位の関係上、倫理的な問題を含みますので、閲覧の際は十分にご注意ください。